松原剣道・剣友会


松剣物語

松剣物語

10.松剣魂

イギリスでの出来事

松原剣道にはこれまでに何人かの外国人が入団して、剣道による日本文化の体験をしています。もう15年以上も前のことですが、そんな中の一人に、イギリス、エセックス大学から獨協大学の交換教授として来日した人の息子がいました。小学校の2年生ぐらいだったと思います。寒稽古を除いて、ほぼ1年間稽古に参加しました。帰国に当たって、父親が「機会があればイギリスでもやらせたい」というので、卒団したOBの中古防具と竹刀をお土産としてプレゼントしました。その後に、私達は、その防具でイギリス人を相手に「松剣魂」を発揮するとても楽しい出来事があったのです。

数年後に我が家の家族でイギリスを旅行する機会がありました。私達がロンドンに滞在していると、交換教授だった父親から電話があって、息子の誕生日のパーティーを計画しているので家族で遊びに来ないかと誘ってくれました。イギリス人の誕生パーティーがどんなものか娘に経験させてあげるのも良い機会と思い、列車に乗って1時間半ほど掛かる道のりを訪ねてみました。我が家の娘達も興味があったとみえて、前日にプレゼントを用意したりして、かなり興奮しているようでした。

しかし、いざ訪ねてみると、集まった子供達がプレゼントを渡した後、応接間でテレビ漫画を見ているだけで、なんにもしないのです。父親だけがおやつを用意したり、アイスクリームを運んだりかいがいしく働いているだけです。英語の漫画を見ていてもさっぱり分からない我が家の娘達は、1時間もすると耐えられなくなって、私に「つまんない!」を連発し始めました。

父親に何か予定があるかと尋ねると、何も計画していないとのこと。そこで、私は一考を案じることにしました。プレゼントしてあった防具を借りて、子供達全員を近くの公園に連れていきました。私が防具を付けて、まず始めに娘から掛からせました。娘達は水を得た魚のように元気になって、私に大きな声で掛かってきました。

次にイギリス人の息子にも掛からせました。これを見ていた友達も次々と私に掛かってきたのです。最初のうちは打たせてだけいたのですがその内に隙を見て私からも、頭や手を叩いてやりました。子供達はそのたびに歓声を上げて喜びました。

その声を聞きつけた近所の大人達も集まってきて、遠巻にしてみています。そこで、大人たちにも竹刀を持たせて、掛からせました。私が打つ度に子供達は大喜びで笑い転げます。そんなことで1時間も汗をかいたら、全員がすっかり打ち解けた友達になってしまったのです。私と家内は、教授の家で近所の人達とビールを飲みながら楽しい会話を楽しみ、子供達は皆で公園の森の中に遊びに行きました。

夕方、私達が帰り仕度をしていると、先程の子供達が「さようなら」を言いに来てくれました。娘達も分からないまでも握手を交わしながら、挨拶をしていました。そして、私たちが駅に向かって歩き始めると、皆がぞろぞろと付いてくるのです。20分ほどの道のりを歩いていると、突然雨が降り始めました。みるみるうちにその雨が土砂降りになって行くのです。それでも誰一人帰ろうとしません。皆で駅まで走りました。駅の構内でも話が止まらないのです。剣道は何時から始めたのか、女の子なのになんでそんなに強いのか等と剣道の質問が続きます。娘達は「松剣魂」が発揮できてうれしくて仕方がないといったように、答えていました。列車が来て私達が乗り込むと、土砂降りの雨の中なのに皆が窓際まで来て、手を振っています。列車が走り始めると、さらにホームを走りながらわたし達が見えなくなるまで手を振ってくれているのです。

「松剣魂」が国を越えて友情という絆を生んだ一日でした。ちなみにこの日の豪雨はイギリスでの歴史的な豪雨で、多くの交通機関を麻痺させ、日本のニュースにまで紹介されたほどだったのです。

松剣のお陰で、私達は大感激の誕生パーティーを経験することができました。