松原剣道・剣友会


剣道のお話

剣道のお話

剣道指導の心構え
名誉師範 友川 紘一

財団法人全日本剣道連盟は、「剣道の理念」(剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である。)と、「剣道修錬の心構え」を昭和50年3月20日に制定し、平成19年3月14日に「剣道指導の心構え」を制定した。全剣連では、この三本を柱にして正しい剣道の普及と発展に努めている。

剣道指導目的として
わが国の伝統と文化に培われた剣道を正しく伝承してその発展を図り、「剣道の理念」に基づき高い水準の剣道を目指すことを目的とする。

剣道指導の心構え

1「竹刀の本意」

剣道の正しい伝承と発展のために、剣の理法に基づく竹刀の扱い方の指導に努める。

(説明文)

剣道は、竹刀による「心気カー致」を目指し、自己を創造していく道である。「竹刀という剣」は、相手に向ける剣であると同時に自分に向けられた剣である。この修錬を通じて竹刀と心身の一体化を図ることを指導の要点とする。

考察する

剣道は武道である。同時に近代スポーツ群にも属している。この特性を指導者がどのように理解し、剣道の「文化性」と「競技性」を融合させるのかは、まさに至難の技である。

武道を大別すると「視覚的武道」(剣道、弓道、合気道など)と、「蝕覚的武道」(柔道、相撲など)に分けられる。

竹刀は日本刀であるとの観念を基とする。日本刀(剣)には、「剣先」「刃筋」「鎬」があり、剣先が点、刃筋が線、鎬が面である。この使い方の向上によって「攻防一致」の打突が体得される。

「剣の理法」とは、剣理と剣法である。「剣理」とは剣の理合、打突の合理性である。「剣法」とは刀剣使用の法則である。いわゆる、剣先、刃筋、鎬の利用、手の内の操作などが刀剣使用の法則である。「剣の理法の修練」とは、この「剣理」、「剣法」に基づいて合理的な打突を修錬することである。これは、あくまでも自己形成・社会形成のための手段なのである。

「相手に向ける剣であると同時に自分に向けられた剣」について、先人は、「剣を離れて剣道なく、道を離れて剣道なし」と。また「剣道は勝負に勝つことのみにあらず、己の非を斬ること」であると。また「剣道の敵は己にあり」とも訓えている。「武芸のみにて武徳あらざれぱ武道にあらず。剣道によって徳を磨くこと忘れるな」とも訓えている。まさにこれこそが文化性である。

弓道においても形こそ違うが、その道の達人「阿波研造」が、ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲル箸「無我と無心」の中で『弓道のテクニックは精神修養によってのみ術となり、すべてうまくいったなら「術なき術」として完成する。これは弓矢を用いて外に向かって行うものではなく、自分自身を用いて内に向かって行うものである。弓道において弓矢 は目標に達するための道具であり、手段にすぎない』と言っている。「道」という芸事は、同様の指導をしているといえる。

竹刀について

竹刀には五つの節がある。この節は、五倫・五常、「論語」孟子の訓え「知・仁・勇・礼・信」の剣の五つの徳を説いたものである。「徳」とは、精神的・道徳的にすぐれた品性・人格なのである。
竹刀には、このような徳を秘められていることを知り、また日本刀という意識に基づき、常に自主点検の徹底を図り、丁重に扱うことが大事なのである。 刀法・身法・心法の鍛錬によって「心気力の一致」の有効打突を求めようではないか。

2「礼法」

相手の人格を尊重し、心豊かな人間の育成のために礼法を重んずる指導に努める。

(説明文)

剣道は、勝負の場においても「礼節を尊ぶ」ことを重視する。お互いを敬う心と形(かたち)の礼法指導によって、節度ある生活態度を身につけ、「交剣知愛」の輪を広げていくことを指導の要点とする。

考察する

「武道は礼に始まって礼に終わる」といわれる、礼の基本は「和」がもっとも貴いのである。論語の訓えの中に孔子は、「和を用(もつ)て貴しと為す」と唱えている。わが国でも聖徳太子が十七条憲法を制定したとき、その第一条に「和を以って貴しとなす」と引用しており、日本の政治理念のトップにあげている。
不動智神妙録(沢庵宗彰禅師が柳生但馬守宗矩に与えた録)の中に、人の道は「忠恕」なり、まごころと思いやりである。と訓えている。また、江戸後期の碩儒(せきじゅ)・佐藤一斉の「言志四録」の中でも「忠と恕」について同じことをいっている。いわゆる「側隠の情」を持った剣道人であってほしいのである。
人間は皆一人では、生きていけない。相手を思いやる心から、優しさ、謙虚さ、美しさが生まれるのである。剣の道での出逢いが人生を根底から変えることがある。「交剣知愛」を大事にして稽古に精進して行こうではないか。また広く生活行動の規範としての礼も身につけなければならない。節度のある折り目正しい日常行動のできることこそ、剣道における礼の真の在り方ではないだろうか。

3「生涯剣道」

ともに剣道を学び、安全・健康に留意しつつ、生涯にわたる人間形成の道を見出す指導に努める。

(説明文)

剣道は、世代を超えて学び合う道である。「技」を求め、社会の活力を高めながら、豊かな生命観を育み、文化としての剣道を実践していくことを指導の目標とする。

考察する

剣道は、老若男女を問わず、ともに「正しく・楽しく・仲良く」を目標にして稽古ができる武道である。また人生の基本は第一に健康である。
「健全な身体に健全な精神が宿る」といわれる。健康に留意しつつ、剣道人は美の心を道として生涯にわたって「積もる稽古」をこころざし、「正しく、美しく、格調の高い剣道」を求めていこうではありませんか。

最後に

指導者のあり方として、指導者は、常に「芽を摘むな・芽を踏むな・水を与えよ」という意識をもって指導するとともに、師弟同行の修行者であることを認識すること。「正しく努力すれば報われる」、「頑張れば必ず道は開ける」という気概で努力することを進め、ヒノキ科の常緑樹「翌檜(アスナロ)」は、あこがれの「槍(ヒノキ)」に明日はなろうという意味の命名とも伝えられる。いわゆる稽古の虫になってほしいということである。また感謝や思いやりの心を教え、素直な気持ちになって剣の道を積み一日一日を大切に前向きに進んでいくよう指導すること。

指導者のタイプとして、 イギリスの教育学者、ウイリアム・アーサーワードの言葉

1 凡庸の教師はただしゃべる。

2 よい教師は説明する。

3 すぐれた教師は自らやってみせる。

4 偉大な教師は子供の心に火をつける。

指導者の先生方はどうでしょうか。

(平成21年6月 )