松原剣道・剣友会


剣道のお話

剣道のお話

審判法解説
名誉師範 友川 紘一

1. 規則について

剣道の試合・審判規則は、剣道の特性や教育的な意義を考慮しながら、社会の一般的な通念や普遍性などを基盤にし、これを試合の場面に適応させて構成したものである。剣道試合規則は、試合者が公平・平等に試合をやるために諸条件を定めたものであり、審判規則は、手続法である。剣道試合規則は、試合者が公平・平等に試合をやるために諸条件を定めたものであり、審判規則は、手続法である。

本規則の目的(第1条)は、「剣道試合につき、剣の理法を全うしつつ、公明正大に試合をし、適正公平に審判することを目的とする」としている。

この条文は、規則全体の主眼となるもので、違法な行為、不当な行為か否かの判断の拠りどころとなるものである。

2. 審判の意義

試合は、試合者にとって稽古の集大成の場であって、技術と精神力を最高度に発揮し勝敗を決する場である。また、審判員は試合者が表わした勝敗の事実を審(つまび)らかに判定する重大な役割を持っている。

剣道がいかに勝敗を超越すべきものとはいえ、最終の決定を与える審判の正否は、今後の剣道のあり方に極めて重要な影響を及ぼすといわねばならない。

審判は、試合者が「剣の理法を全うしつつ公明正大に試合を」行なっているかを見定めながら、適正公平に審判を行ない、剣道のあり方を望ましい方向に指導することに深い意義がある。

3. 審判の目的

審判員の目的は、剣道試合・審判規則を正しく運用し、試合による全ての事実を正しく判断し、決定することである。

特に有効打突の判定の正否は、剣道のあり方を方向づける重要な鍵をもつ。なおその上に、審判員は試合者に活気をつけ、興味を喚起させ、かつ技術の正否を自覚させ、正しい剣道を自得させ、剣道を善導することにある。

従って、審判員は、適正に試合を運営し、試合者が決定した勝敗を正確に判定することはもちろんのこと、服装、姿勢、態度も厳正にして、活気ある判定をしなければならない。

『審判が良くなれば試合がよくなる。試合が良くなれば剣道がよくなる。』

4. 審判員の任務

審判員は、剣道の理念に基づいて、剣道試合・審判規則、その細則及び運営要領ならびに試合・審判・運営要領の手引きを正しく運用し、試合者が表した試合による全ての事実を公平無私にして正確に判断し、決定するとともに適正な試合運営に努め、試合の活性化を図ることである。

さらに、審判員の「使命は何か」、「任務は何か」、「資格は何か」を自覚する必要がある。

5. 審判員としての心得

[一般的要件]

(1)公平無私であること

(2)剣道試合・審判規則、運営要領を熟知し、正しく運用できること。

(3)剣道の技の理合に精通していること。

(4)審判技術に熟達していること。

(5)健康体で、かつ活動的であること。

[留意事項]

(1)服装を端正にすること。

(2)姿勢・態度を厳正にすること。 (審判長、審判主任、審判員、控えの審判員)

(3)審判旗の表示を明確にし、宣告する時の言語は明解であること。
(審判旗は、審判員の権威と責任を表象するものである)

(4)審判員相互の意思統一をはかること。

(5)審判員相互の旗の表示を確認する。

(6)数多く審判を経験し、反省と研鑽に努めること。

(7)良い審判を見て学ぶこと。

(8)試合終了後、他の審判員と当該審判の反省を行うこと。

6. 有効打突の見極め(有効打突の判定能力・処理能力)

有効打突は、有効打突の条件や要素を満たしたものであらねばならない。有効打突の一本こそが剣道の生命線であり、剣道の特性であります。よく眼で見て、耳で聞いて、理合、経験則・勘で判断することが肝要である。

[Ⅰ]有効打突の条件(規則12条)

(1)充実した気勢(心身ともに気合が充実していて相手を圧倒する勢い)

(2)適正な姿勢(打突したときの体勢と打突方向が一致し、体勢が安定している)

(3)竹刀の打突部で打突部位(物打ちを中心とした刃部(弦の反対側))

(4)刃筋正しく打突(竹刀の打突方向と刃部の方向が一致している)

(5)残心のあるもの(打突後の気構え、身構え)

[Ⅱ]有効打突の要素

(1)間合

(2)機会

(3)体捌き

(4)手の内の作用

(5)強さと冴え

[Ⅲ]特に留意すべき事項

(1)有効打突と認める場合(細則11条関係)

1.竹刀を落とした者に、直ちに加えた打突。

2.一方が場外に出ると同時に加えた打突。

3.倒れた者に、直ちに加えた打突。

4.試合時間終了と同時に加えた打突。

5.打突そのものが軽くても、「玄妙な技」などは技の質として一本にとれる場合がある。軽いから一本にならないとはせずに、技の違いによる有効打突を見極めることが大切である。

6.試合者の錬度に応じた(目線)有効打突の見極め。

(2)有効打突としない場合(細則第12条)

1.有効打突が両者同時にあった場合(相打ち)安易に相打ちで済ませてしまうことがあるが、相打ちはまず無いと考えて対処しなければならない。

2.被打突者の剣先が、相手の上体前面に付いて、その気勢、姿勢が充実していると判断した場合。

(3)有効打突の取り消し(規則第27条・細則24条)

試合者に不適切な行為があった場合は、主審が有効打突の宣告をした後でも、審判員は合議の上、その宣告を取り消すことができる。不適切な行為とは、打突後、必要以上の余勢や有効を誇示した場合などとする。

(4)有効打突の錯誤(規則第28条・細則25条)

審判員が有効打突などの判定に疑義がある場合は、合議の上、その是非を決定する

1.有効打突または反則を錯誤して判定した場合

2.試合時間終了の合図が確認できず試合が継続され、有効打突の判定が行なわれた場合

3.反則回数を錯誤して、試合が継続され、有効打突の判定が行なわれた場合

7. 禁止行為の厳正な判断と処置(判断能力・処置能力)

[Ⅰ] 反則事項の見極め

行為の原因と結果の正しい見極め、禁止行為に対する的確な処置。 不当な行為を見逃すと不当な行為が増幅してくるので厳格に見極める。審判員は、共通認識と決断力が重要である。 疑問のある場合や微妙な事象については、合議により事実に基づいて判断する。
不当な行為とは、違法とまでは云えないが、一般的な通常の概念を超えた行為として考える。いわゆる一般的に見て異常な行為をいう。

[禁止行為事項]

(1)規則第15条(禁止物資を使用もしくは所持し、または禁止方法を実施すること。)

(2)規則第16条(非礼な言動)

(3)規則第17条(諸禁止行為)

1.不正用具使用

2.足を掛けまたは払う

3.不当に場外に出す

4.試合中に場外に出る

5.竹刀を落とす (竹刀の操作能力・管理能力の有無で判断すること)

6.不当な中止要請をする

7.その他、この規則に反する行為

(4)細則第15条(規則第17条4号 場外)

1.片足が、完全に境界線外に出た場合

2.倒れたときに、身体の一部が境界線外に出た場合

3.境界線外において、身体の一部または竹刀で身体を支えた場合

(5)細則第16条(規則第17条7号 禁止行為)

1.相手に手をかけ又は抱えこむ

2.相手の竹刀を握る又は自分の竹刀の刃部を握る

3.相手の竹刀を抱える

4.相手の肩に故意に竹刀をかける

5.倒れたとき、相手の攻撃に対応することなく、うつ伏せなどになる (対敵動作があるかどうかを良く見て判断すること)

6.故意に時間の空費をする

7.不当なつば(鍔)競り合いおよび打突をする

[Ⅱ] つば(鍔)競り合いについて

つば(鍔)競り合いとは、相手を攻撃したり相手が攻撃を加えてきた時に、互に身体が接近して鍔と鍔とが競り合う状態をいう。鍔競り合いになった場合は、試合者は積極的に技を出すか、積極的に解消するように努めなければならない。

(1)基本的な判断として

1.正しい鍔競り合いをしているか

2.打突の意志があるか

3.分かれる意志があるか などを良く見て、膠着か、不当な鍔競り合いか、故意に時間の空費をしているかを見極めること。 膠着や不当な鍔競り合いに関する処置は、試合の運営にかかわる主審の専決事項である。したがって、副審は中止宣告をすることができない。

(2)膠着と'分かれ'について

膠着の状態を安易に考えないようにする。安易に'分かれ'を宣告すると、試合者は審判の'分かれ'に頼り、これを利用してしまうことになりかねない。

[Ⅲ] 審判員の中止宣告は次の場合に行なう

(1)反則の事実

(2)負傷や事故

(3)危険防止

(4)竹刀操作不能の状態

(5)異議の申し立て

(6)合議

[Ⅳ] 審判員の合議は次の場合に行なう

(1)有効打突の取り消し

(2)審判員の錯誤

(3)反則の事実が不明瞭の場合

(4)規則の運用および実施の疑義

[Ⅴ] 規則に示されていない多種多様な状況が発生した場合の処置・判断

規則第1条(本規則の目的)「剣道試合につき、 剣の理法を全うしつつ、公明正大に試合をし、適正公平に審判することを目的とする」の基本的な精神に基づいて厳正に処置する。

8. 審判員の位置取りと対応の仕方(位置・移動)

(1)原則として、主審を頂点とした二等辺三角形を維持して、速やかに移動する。

(2)試合者の動きに合せて、三人の連携やバランスを保ちながら、臨機応変に一番見やすい位置を確保する。

(3)審判員は、試合者と他の審判員を常に視野に入れておく。

(4)主審が試合状況を先取りして素早く位置取りをすることにより、主審に連動して副審は位置取りがしやすくなる。主審の意識が大切である。

最後に

剣道は、試合者と審判員および観衆によって成立する。審判員は試合者、観衆が納得するものでなければならない。そのためには、試合・審判規則に沿って正確に判断をし、適正な試合を運営し、判定する能力がなければならない。

立派な審判を行なえるようになるためには、剣道の稽古、剣道の工夫研究、健康管理、審判の経験などを積み重ねていき、日々の切磋琢磨が大切である。