松原剣道・剣友会


剣道のお話

剣道のお話

剣道の昇段審査に臨む受験者のために
名誉師範 友川 紘一

審査員は、平成12年4月に施行された全日本剣道連盟の「剣道称号・段位審査規則」第14条付与規準と段位審査の着眼点に示されたこと、合わせて審査員の経験則を踏まえて判断し、合否を決定するものでありますから、受審者はその内容をよく理解して受験することが大切です。

着装、礼法、構えが備わっているか。(段取り)

稽古着、袴、剣道具の着装がその人にフィットしていて見映えの良い事が大切です。

姿勢、態度は構えの原点であり、蹲踞は獅子の位といわれます。相手と対峙して蹲踞までの身構えに、威厳のある堂々とした姿勢が望ましいと思います。これは平素の稽古において心掛ければ備わるものです。

構えは土台です。蹲踞から立ち上がった時の気構え、身構えに、段位に相応しい風格、品位が備わっていなければと思います。腹構え、腰構え、胸構え、顎構えの釣り合いが良く、背筋の通った後ろ姿の美しい構えが望ましい。独楽(コマ)を例えれば、触れればたちまちはじき出すような、気魄がみなぎっている構えであって欲しいと思います。

段取りについて先人の剣歌で次のように訓えています。

「海原の千尋の底の静けさを 心に秘めて場に出るべし」
「晴れてよし 曇りてもよし富士の山 元の姿は変らざりけり」

無理打ち、無駄打ちのない理合にかなった打突であるか。(真剣、締めくくり)

剣道は、切るか切られるかという緊迫の中、互いに中心の取り合いの攻防から、自分の打ち間に入り、攻め勝っての気剣体一致の打突が求められます。

自分の打ち間から攻め勝っての捉えた撃ちについて先人の剣歌に、

「張れや張れ ただゆるみなきあずさ弓 放つ矢先はしらぬなりけり」
「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 踏み込みみればあとは極楽」

という訓えがあります。良くあじわいたいものです。

打突の機会でもないのに無理な打突、無駄な打突、理合の外れたアテッコ剣道、姿勢を意識しすぎてか攻めのない打突になっている人が目につきます。

打突の機会(三つの許さぬところ)について

(1) 敵の起こり頭
(2) 受け止めたところ
(3) 技の尽きたところ
(4) 退くところ
(5) 居ついたところ

など撃つべき機会は多いものです。

剣道は、昔から生死をかけた格闘技であるから、互いの根性の錬り合い、叩き合いもあるでしょうが、風格、品位の言葉にほど遠くなります。

隙がなければ撃つなといわれています。「心の隙、構えの隙、動作の隙」、この隙は見逃すな、もし隙がなければ崩して隙を作って撃てといわれます。

三つの隙

(1) 心の隙とは、心は動作を起す根源であるが、この心にどこか隙があること。剣道の四戒のことであります。頭上満々却下満々全身に気をみなぎらせることが大事です。

「こころこそ こころ迷わすこころなれ こころにこころ こころ許すな」

(2) 構えの隙とは、構えに隙があれば、直ちに打ち込まれるので、体勢を整え十分な構えが必要です。形だけのものでは「時計の振り子」と何等変わらないのであります。例えば、手元が上がりすぎの構え、剣先が下がりすぎの構え、竹刀を握る手に力が入りすぎの構えなどです。

(3) 動作の隙とは、打突の機会です。 審査は短時間です。短時間の内に隙は数少ないので、打突の機会は逃さず初太刀は絶対取る気概が大切です。

隙の捉えた撃ちについて先人の剣歌に

「敵をただ撃つと思うな身を守れ おのずから洩る賎ヶ家の月」

という訓えがあります。月の明かりは隙間があれば瞬時に射し込む様子です。

捨て切る時には、気を臍下丹田に下げ、左手、左腰、左足を意識して、充実した気魄で捨て切ることです。捨て切るとは、打ち切ることです。

捨て切ることについて、先人の訓えに「露の位」という訓えがあります。露の位とは、草葉の露はわずかな物に触れるとたちまち地に落ちます。いわゆる溜めたものを瞬時に爆発させる。打ち切ることです。打ち切った後は、きびきびした気構え、身構えが大切です。

次に掛け声について、蹲踞から立ち上がり、位を作った後の掛け声、打った時のしり上がりの掛け声とその余韻のある残心を心掛けることも大切なことです。

平素の稽古にあっては、無理打ち、無駄打ちをなくし、剣道理念に即した稽古を求め、初太刀の一本は絶対取る気構えで、積もったつもりの稽古ではなく、積もる稽古を心掛けることが大切であると思います。

上手に掛る稽古を心掛けているか。

私は、平成4年の受審で八段に合格させて頂きました。受審にあたっては、5年の目標設定をし、6年目に照準を当て、地力をつけるべく、上手の先生に指導頂くため、様々な先生を目指して足を運びアドバイスを受けました。

各先生のご指導は、良く理解できます。しかし、素直に受け入れるべきところですが、全員の先生のご指摘を平素の稽古に受け入れまして稽古するも、なかなか表現することは難しい面があります。

自分の剣道、剣風と自分の理想とする剣道にあった、これだという先生のアドバイスがあります。これを平素の稽古の課題として積み上げることです。

特に、上手の先生に掛った時の気持ちで下手と稽古を積むことが大切なのであります。

上手に掛る時は、全身全霊でお願いしていると思います。しかし、下手との稽古の際、気を抜いた稽古になっていないでしょうか。自分の課題を忘れずに、合気で稽古を積むことです。

合気とは、日本剣道形を演武する場合に、呼吸を合わせて迫力のある形をと言われるような稽古のことです。近間での叩き合いや、理合に外れた稽古は避けること。自分の打ち間から攻め勝って、捉えた撃ちを心掛けて頂きたい。剣道の理合の深さを知り、自己の剣風を省みて、打って反省、打たれて感謝で、常に謙虚な気持ちで稽古を積み重ねて頂きたい。

以上ですが、審査は短時間です。自分の剣道を信じて、常に反省、工夫をしながら、地力をつけ、平素の稽古の大切さをしり、目標達成に邁進してください。

不可能を可能にするためには、正しい剣道を積み重ねることです。私も、警視庁という大きな組織に感謝しつつ、日々反省の稽古を積んでいるところであります。

『立ち止まり、振り返り、今日も行く一筋の道』