松原剣道・剣友会


剣道のお話

剣道のお話

全米剣道選手権大会に審判員として参加して
師範 南 雄三

私は今年(平成20年)の7月3・4・5日に、アメリカのラスベガスで行なわれた「第11回全米剣道選手権大会」に、縁あって審判員として参加する機会を得ました。この大会を通じて感じたことは沢山ありますがその一部を紹介したいと思います。

第一に感じたことは、アメリカ選手の多くが世界大会での日本に対する勝利の興奮をそのまま維持しているということです。ご存知のとおり、世界大会で日本が初めて敗れたのが、一昨年の世界大会でのアメリカチームです。世界大会では、とても大きな勢いと盛り上がりを感じましたが、今大会でも全体を通じて、選手の一人一人が大会に出場する喜びを身体全体に充満させて試合をしているのです。そんなアメリカチームを見て、私達同行した者の多くが、アメリカは日本にとってこれからも侮れない強敵の一つになるだろうという印象を受けました。

第二に、ある人が「日本で失われた武士道の精神がここアメリカに残っている」と述懐していましたが、私も同様の印象です。武士道的精神の本質は尊敬と感謝の礼、そして命がけの捨て身にあると私は考えています。残念ながら、今の日本での試合を見ていると、負けないための工夫が良い試合と考えられている節があります。捨て身になれないそうした精神からは相手に対する本心からの尊敬と感謝の礼は生れません。また、監督や観客の姿も同じで、日本の地方大会でしばしば見られる、監督からの試合中での選手に対する指示、さらには叱責や罵声などを浴びせる姿を殆ど見かけませんでした。

勝負の世界である以上は、一昨年の世界大会で日本がアメリカに負けたことはさしたる問題ではないと思っています。しかし、剣道における優れた要素が日本剣道から失われることこそは、大問題だと思います。海外の人達が最も大切に考え、剣道を通して学ぼうとしている精神こそ、本家である日本剣道が維持していなければならない大切な要素です。それこそが私達が子供達にきちんと学ばせ、身に付けさせなければならない本質なのではないかと思います。

私達日本から参加した審判員の誰もが、とても清々しい気持ちで最後まで審判を努めることができました。この大会を通じて、我々指導する立場の者は、勝ち負けを越え、海外の人々からも尊敬される内容の剣道を、将来を担う子供達のために伝えて行くことが、最も大切なことなのだと改めて強く認識した次第です。