松原剣道・剣友会


剣道のお話

剣道のお話

看板「松原剣道場」
揮毫 剣道範士九段 楢崎正彦先生
入魂式:平成5年(1993年)11月6日 草加市金明氷川神社

挨 拶

挨拶というよりも、一言御礼を申し上げたいと思います。そもそもこういう機会ができましたのは……、遡れば南先生、増田先生とは講談社という稽古場を通じて知り合ったのが最初でした。その後、縁あって三郷での稽古が始まりまして、急速に近しくなった訳です。二人は人柄がこういうように真っ直ぐな人ですので、人を引き付ける吸引力というようなものがありまして、それで近しくなったのです。

そうこうしている内に、松原剣道スポーツ少年団の二十周年があるので看板を書いて頂けないかというお話がありました。私は字は上手ではないし、恥を生涯残しても仕様がないと思って一旦はお断りしたのですが、「書の先生で字の上手な人は沢山いますが、剣道を通じて私達が尊敬する先生に書いて頂くのが一番有難い」という、本当に私にとっても嬉しい言葉を頂いたものですから、お二人の人柄に私も共鳴しまして下手でもよければということでお引き受けした訳です。

書くために一ヶ月くらいかかったのではないかと思います。あのように大きな立派な、そして道場に長く残るものなのですから、そう簡単には書けないなと思いまして人には言えない苦労も致しました。しかし、引き受けたからには気持ちを込めて書こうと思って書きました。この看板はそういうご縁でできたものなのです。

先日、横浜で東西対抗試合がありました折に増田先生がみえていまして、一緒に電車で帰ったのですが、その時に「入魂式をやりたいと思うのですが、先生の御都合はいかがでしょうか」と言われました。実は入魂式という言葉はあまり耳慣れない言葉だったのですが、「せっかく先生に書いて頂いたものですし、小川先生に頂いた書もそうしました」と聞きまして、私はまた感動した訳です。

子供達に自分達の剣道の精神を植付けるには、せっかく頂いた看板にもう一つ魂を入れたいという取り組み方につきまして、私自身が何だか教えられたような感がありました。
このようなお二人との縁によりまして、この松原剣道とも縁ができましたことは、私の生涯の剣道に取り組む中における思い出の一つだと思っております。

今日、子供さん達の和やかな、楽しそうな、しかも厳しい稽古振りを見ました。何はさておき、あそこまでできたと申しますのは、先生方の御協力はもちろんですが、父母会の皆様の真からの子供達に対する親の愛情がかくあらしめているのではないかということを、ひしひしと感じる訳でございます。

今は自分達の子供ですが、社会にでれば社会の子供になる訳で、その辺を思えば中途半端な指導ではなく、やはりある程度の所まではするべきだと思っております。それには、父母会といってもやはりお母様方が大切なのではないかと思います。
こういう躾は、道場の先生と家庭とが一体とならなければ意味のないことなのです。

今後は自分の子供を育てるためではなくして、社会の子供を育てるためなのだという気持ちで、長い目で、おおらかに、おおきくお母様方から子供に愛情を注いで頂きたいと思います。そして子供達がすくすくと伸びられますことを、心から祈念する訳でございます。

男の子は男らしい、女の子は女らしい立派な社会人となりますよう、お母様が陰の人として長い目で御指導、激励下さいますようお願い致したいと思います。

私も何かにつけて先生方を通じ、子供達の成長を陰ながら期待しております。簡単ではございますが、御礼と致します。本日はこういう席をお作り頂きまして、有難うございました。

「松原剣道場」の看板について

剣道は、日本の文化を背景として、永い年月を経て、日本人が創造した大変見事ないわば宗教的な修錬法であると、私は考えています。剣道を学ぶ場は、本来ならば神社や教会のような特別な雰囲気を持った環境が望ましいと思います。人は誰でもがそうした環境に入るとそこでの行為が自然なものとなるからです。

松原剣道は、小学校と市の体育館とを稽古場としています。体育館では、稽古の直前迄運動靴で走り回っていた子供達に「ここは剣道場です」と何回説いてみても、なかなか理解できるものではありません。「道場の出入りには神に礼をしましょう。履物は揃えておきましょう。見学をする時は道場の中で座って見学をしましょう」、等という教えは、本来道場に出入りする父母の方々にも同じようにして頂きたいことです。それが道場なのです。

剣道を学ぶ以上、長い歴史の中で培ってきたそうした大切なものは私達の世代ででも大切にしたい事柄です。そういう思いが私の心の中に日々強まりつつあったある日、ある剣道団に伺って、体育館の入口に立派な看板が置いてあるのを拝見したのです。私は大変感動し、是非とも松原剣道にもこれを備えたいと考えました。

学問でも剣道でもただ努力さえしていれば、良い成果が得られる訳ではありません。よい成果とは、知識の量や勝負の強さだけではないはずです。教える者と学ぶ者とそれを支える両親の思いがあって始めてすばらしい成果が得られるのだと思います。

看板は、そうした思いの象徴です。勿論、看板ひとつで環境を作ることはできません。しかし、私たちの気持が看板に籠もればこれも象徴となり得るのではないかと思います。 象徴という以上は、松原剣道が続く限り大切に活かしてゆけるものでありたいと考えました。そこで、子供達を指導する私達自信が最も尊敬する先生から書いていただきたいと考えたのです。

楢崎先生は、私達3人が最も尊敬する先生なのです。幸いにして楢崎先生にお引き受け頂けたことは本当に光栄だと思っています。

看板に込めた思いが、団を構成する総ての人々の心に宿り、長く生きつづけることを祈念して、また揮毫下さった楢崎先生への感謝の意を込めて、入魂式を実施した次第です。

南 雄三 記